映画音楽が好きだから。
何人か好きな映画音楽家がいる。
そのうちの一人、坂本龍一。
坂本さんは、病気から復活されて2本の映画に携わった。
「母と暮らせば」
「レヴェナント」
母と暮らせば、は映画も音楽も素晴らしかったが、両者が溶け合って
いない感じがした。
山田洋次監督はとても安定した絵を取る監督だと思う。
一方、坂本さんは実験的な音楽家だ。
実験的な音楽家が、安定的な監督の作品に音楽をつける行為
は実験的ではある。
山田監督は、小津安二郎監督を尊敬していることで知られている。
坂本さんも、小津映画へのオマージュのつもりで音楽を書いた、そういう意味で
は新しい挑戦をしたと言っていた。
だが、やはり安定的な絵を得意としている監督とは、溶けあわないという
印象が残った。
これぞ坂本という「響」があるが、それは山田映画の中では鋭角すぎる。
かたやレヴェナント。これは素晴らしかった。
坂本龍一が手がけるべき映画だと思った。
静寂と暗さ。その中にある美しさ。
そこで、坂本さんの実験精神が映像と見事に溶解していた。
僕は、2度レヴェナントを観た。
パブリックイメージとしては坂本=戦メリ
は未だにあると思う。
がしかし、アルバム「out of noise」前後のサウンドスケープの
ような音世界を追求してきた坂本音楽が「レヴェナント」には溢れているのだ。
近年の坂本ワールドなのだ。
イニャルトゥ監督は坂本ファンを公言しているが、その通り良く
坂本さんの音楽を聴いているんだな、と映画を観ながら感じた。
イニャルトゥ監督だから、あそこまでの音楽を引っ張り出せたのは
間違いない。
レヴェナントは呼吸で始まり、呼吸で終わる映画。
命の続く限り、最後まで呼吸するんだ。生きろ!というメッセージだと僕は
受け止めた。
映画のエンドロールの音楽は、ピアノとチェロで始まる。
たっぷり間をとった曲なので、音の出始めに呼吸をしてタイミングを
合わしている。
その呼吸の音が、しっかりと録音されている。
この映画の重要な要素である「呼吸」をここでも活かしている
のだと思う。
だから映画を観る人は、エンドロールで帰らないで、そこも
体感してほしい。